駄文

やけに重いそのドアを開いた途端わたしを襲ったのは落雷。
音の津波なんて生易しいものじゃない。もっと獰猛で腹の底に重く響く音の渦と振動。
けれどそれは不快じゃない。むしろ長く浸りすぎれば抜けられなくなるドラッグのような体感。
それに逆らうようにキッと唇を噛み、音だけじゃなく色とりどりのスポットライトが乱舞するフロア全体に視線を巡らせた。
中味なんてちっとも無い女の子の気を惹くためだけの軽快なトークとそれに答える上辺だけの馬鹿笑い。そんな上辺だけの仮面の下で腹を探り合う計算高い視線に吐き気がした。
そんな奴らに興味ははい。
朔也−−
朔也はどこだろう。
こんな時、視覚なんかよりもっと原始的な感覚の方が彼を見つけるのにずっと長けてることを知っているわたしは深呼吸を一つして目を閉じた。真っ暗な瞼の先に朔也が放つ光を感じる。
太陽ほど暑苦しくない。
ダイヤモンドほど安っぽくない。
この感覚は言葉では表現できない。例えれば引力。
そんな光に導かれるままわたしは迷わず足を進めた。
「朔也」
「……ダレだっけ」
私の呼びかけに反応した彼は髪の毛と同じ色の薄茶色の直線的な眉をちょとだけ上げ、光の加減では紫にも見える瞳を細める。口元にはからかうような笑み。煙草を持つ指先は嫉妬を覚えるほど綺麗だ。
腹が立つ。けれどコレが朔也だ。
「このオバサンなぁに?」
彼の腕にしなだれかかった少女が嘲笑うような表情を浮かべてわたしを上目づかいに見る。朔也好みのベビーフェイスとそれに相反したグラマラスボディの持ち主だ。けれど朔也の真の本命を知る私にはそんな彼女の媚びが哀れでならない。
「ふざけてる暇はない。鳩の血が必要だ」
「訳分かんない、このオバサン。ねぇ、あっちでもっとイイコトしようよ。ね、朔也」
そう言って朔也を見上げた少女は彼の物騒すぎる表情に小さく息を飲んだ。甘えるように絡ませていた腕から力がみるみる間に抜けていく。
「もうアンタとは関わりあいたくないんだけど」
本当に嫌そうに吐き零す。
「わたしもね。でもアンタがその耳に和臣の鎖を付けてる限りこの腐れ縁は続くよ」
朔也の左耳にある血の色をしたピアスに視線を配らせた。血の色は例えじゃない。アレは朔也と彼の実兄の和臣の血を混ぜて固めて作ったピアスだ。そのピアスをピジョンズプラッド(鳩の血)とわたしは呼んでる。彼ら兄弟のいびつな関係をその石は示してる。

朔也は私の数少ないオリジナルキャラクターの一人です。父はヤ○ザの組長。現在は腹違いの兄が組を継いでいます。朔也はその兄を慕っていて彼の戦力になりたいと思っているけれど、兄(和臣)は朔也には危険な世界には近づいて欲しくないと思ってる。そんなストーリー。
美少年設定の朔也は子どものころ敵対する組織に誘拐され、その時生き延びるためにその誘拐犯を誘惑した過去があり、その時のトラウマで無意識に男を誘惑するフェロモン垂れ流し。(が、あくまで本人硬派なつもり)