現実と空想の境目

 遅ればせながら、島田荘司さんの星籠の海 上星籠の海 下を読み終えました。
 島田さんの作品からは、病気(医療)の問題や、社会問題について学ぶことがあったり、写楽の人物像に迫ったように、読んでいると作品で示された答えが正解のように思える説得力や歴史上の事実と想像を交えた面白さが感じられたりします。
 今回の作品でも、さまざまな社会問題が提起されていて考えさせられたし、歴史空想部分も興味をもって読めました。推理小説としての推理部分を期待している方には物足りないかもしれませんが、私はある時から御手洗潔シリーズにとって「推理」は物語を構成する一エッセンスであって、主軸ではないとの見方でいます。
 星籠の海では、宗教問題、いじめ問題、犯罪心理等が描かれていました。特に、過失事故を起こした場合自分もこういう心理になるのではないかという犯罪心理部分が多かったです。
 反対に、全く判らなかったのは、前半で売出し中だった女優が事故に遭い、郷里で自殺するあたりです。いじめに遭っていた少年や報復を留めた大人の話は物語の一部として受け入れられたのですが、女優の話はなんのためにあったのか、さっぱり……でした。(女優の)彼氏の人間形成に関わる流れとしても、何故あそこまで彼氏を振り回して死ななければならなかったか理解が出来なかったです。
 全体として、淡々と物語が語られていて、御手洗と石岡の会話が少なかったのが残念ですが、最後までそれぞれ散りばめられたピースがどう繋がるのか興味深く読めました。